NY市街の裏路地。
薄汚れた壁や散らばったゴミ、そしてジメジメした空気に似つかわしくない、上品なドレスを纏った女が歩いている。名を、メリッサ・山吹・メイソンと言う。彼女はお世辞にも治安がいいとは言えないようなこの裏路地を、まるで自分の庭かのように堂々と歩いていた。
と、彼女の正面から狭い裏路地を歩いてくる少年がひとり。彼は彼女とは対極的に、ストリートチルドレン然とした小汚い格好をしている。彼はそのままメリッサの横を通り抜けようとして、彼女と肩をぶつけてしまった。
「っとと、悪いね……」
「ごめんあそばせ」
各々軽く謝罪をして、その場をそのまま立ち去ろうとした。
次の瞬間。
少年の身体は宙に浮かんでいた。
「――あっ?」
疑問符が浮かんだ次の瞬間には、全身が激しく地面に叩きつけられる。足払いをされたのだ。誰に? 何故?
彼の疑問には、すぐに答えが提示される。
「少々、おいたが過ぎましてよ」
今し方、彼が肩をぶつけてしまった女――メリッサが、あっという間に彼を組み敷いていた。
「なっ、何の、ことだよ――離せよ!」
「手際が良いのは褒めて差し上げたい所ですけれど、選ぶ相手を間違えましたわね。次にどうするべきかは……間違えないで頂きたいですわ」
「っ、……」
少年は抵抗しようとするが、自分の身体がびくともしない事に気付いて、諦めたように嘆息する。
「……わかったよ、返すよ、財布。それでいいだろ、離してくれ」
「ええ、それで結構」
渋々差し出される財布を受け取ると、メリッサは彼の上から退いた。